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鳥取地方裁判所 昭和60年(行ウ)1号 判決

鳥取県米子市米原五六四番地

原告

高林興産株式会社

右代表者代表取締役

高林健治

鳥取県米子市西町一八番地の二

被告

米子税務署長

森尾英己

右指定代理人

菊池徹

古谷智春

岩佐榮夫

斉藤俊英

黒阪純一

藤江義則

高地義勝

福重光明

主文

一  原告の請求はいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和五九年六月二八日付でした原告の

(一) 昭和五五年六月一日から同五六年五月三一日までの事業年度の法人税の更正処分のうち翌期へ繰り越す欠損金八三一万七一五九円について、

(二) 昭和五六年六月一日から同五七年五月三一日までの事業年度の法人税の更正処分のうち翌期へ繰り越す欠損金二〇六万三五九三円について、

(三) 昭和五七年六月一日から同五八年五月三一日までの事業年度法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を

いずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は青色申告書提出の承認を受けた法人であるが、原告が昭和五五年六月一日から同五八年五月三一日までの三事業年度(以下「本件各事業年度」という)の法人税についてした確定申告、これに対して被告のした更正処分(以下「本件各更正処分」という)及び過少申告加算税の賦課決定処分(昭和五七事業年度について、前記各更正処分と併せて「本件各処分」という)の経緯は別表一ないし三記載の各課税経過表のとおりである。

2  原告は右処分を不服として昭和五九年八月一一日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は、同六〇年三月一九日、右審査請求を棄却する旨の決定をした。

(一) 本件各事業年度の原告の確定申告における翌期繰越欠損金額と被告の本件各更正処分におけるそれとが異なるのは昭和四八ないし五四各事業年度(以下「係争前各事業年度」という)において原告が親会社等へ支払つた費用を損金に算入すべきところ被告がそれを寄付金と認定した点などにあり、右更正処分等について原告は鳥取地方裁判所にその取消の訴(鳥取地裁昭和五二年(行ウ)第六号、昭和五六年(行ウ)第一号)を提起し、右事件は現在最高裁判所に係属中である。

(二) 被告は、右前訴で、係争前各事業年度における更正処分において本来寄付金と認定すべきを誤つて一部債務保証料と認定した旨法定で認めた。

(三) このように未確定かつ誤りである係争前各事業年度における繰越欠損額に基づく本件各更正処分は、被告の更正権の濫用によるもので違法というべきであり、またこれを前提とした被告の昭和五七事業年度についての過少申告加算税の賦課決定処分も違法である。

よつて、原告は本件各処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3は争う。ただし、同(一)、(二)の事実は認める。

係争前各事業年度分について前訴が係属中であり、保証料の認定に誤りがあつたとしても、それらの被告の更正処分について重大かつ明白な瑕疵があつて、それが無効であると認められない以上、行政処分の公定力により本件各更正処分当時において処分の現に存在する範囲において当該係争前事業年度の繰越欠損金は確定しており被告はこれに基づいて本件各処分をしたのであるから、被告がした本件各処分は適法である。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各処分が適法であるか否かについて判断する。

1  請求原因3(一)、(二)の事実は当事者間に争いがなく、これと前記争いのない請求原因1の事実、いずれも成立に争いのない甲第一号証(原本の存在及び成立も争いない)、第二、第三号証、第五ないし第七号証(甲第五号証は原本の存在及び成立も争いない)、乙第一ないし第六号証、第八ないし第一四号証及び弁論の全趣旨により成立の認められる乙第七号証によれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(一)  原告の昭和四八、四九事業年度分の確定申告に対する各第三次更正処分及び昭和五〇ないし五二事業年度分の確定申告に対する更正処分において、被告は、原告が右五事業年度に親会社等に対して支払つた負担金名義の金銭を法人税法三七条五項所定の寄付金に該当するものと認定して同条二項、同法施行令七三条により計算した金額(損金不算入額)を申告所得金額に加算した。

(二)  原告は、右負担金名義の金銭は損金に算入すべきものであるから、右損金不算入額を所得に算入すべきではないので、右各更正処分には原告の所得金額を過大に認定した違法があり、これに基づいてなされた昭和五三、五四事業年度分の法人税についての被告の各更正処分も違法であるとして被告の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の取消を求めて鳥取地方裁判所に訴えを提起したところ、昭和五七年六月二四日同裁判所で原告の請求を棄却する旨の判決が言渡され、更に昭和五九年一月二五日、広島高等裁判所松江支部で原告の控訴を棄却する旨の判決が言渡され、右事件は現在最高裁判所に係属中である。

(三)  被告は、右訴訟の係属中である昭和五九年六月二八日、昭和四八ないし五四事業年度までの更正処分の結果に基づき本件各処分をした。

(四)  被告は、従前の更正処分において負担金名義の金銭の一部を損金と認め右訴訟においてもそのことを前提とした主張を行なつてきたが、右訴訟の第一審中である昭和五五年三月一三日ころ、前記金員の趣旨につきいずれも寄付金に該当するものとして主張を変更するに至つている。

2  ところで、本件各事業年度の繰越欠損金額は前記係争前各事業年度における繰越欠損金額によつて定まる関係にあるところ、前記認定のとおり、係争前各事業年度分の各更正処分については訴訟が係属中であり、しかも繰越欠損金額の認定において誤りがあつたことを被告が認めている。

しかしながら、一般に、行政処分に重大かつ明白な瑕疵がありそのため行政処分が無効と認められる場合であれば格別、そうでない以上たとえ瑕疵があつても行政処分の安定を図る意味から右処分が取消権限のある行政庁または裁判所によつて取り消されるまでは有効なものとして扱われるというべきであり(行政処分の公定力)、係争前各事業年度分の各更正処分にこのような重大かつ明白な瑕疵があることの主張立証はない(なお、前記繰越欠損金額の認定において被告が誤りがあつたことを認めているが、このことをもつて直ちに重大かつ明白な瑕疵があるとは認め難いのは明らかである)。

したがつて、被告が係争前各事業年度分の各更正処分の結果に基づき本件各処分をしたことは行政処分の公定力に基づくものであり、この点違法な点はない。そして、他に、被告の更正権の濫用を基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない。

さすれば、被告がした本件各処分は適法というべきである。

三  以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 平田勝美 裁判官 清水正美 裁判官 金光健二)

別表一 課税経過表(自昭和五五年六月一日 至昭和五六年五月三一日)事業年度

〈省略〉

別表二 課税経過表(自昭和五六年六月一日 至昭和五七年五月三一日)事業年度

〈省略〉

別表三 課税経過表(自昭和五七年六月一日 至昭和五八年五月三一日)事業年度

〈省略〉

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